獣毛の歴史

人間と羊の結びつきは非常に古く、約1万年前の新石器時代に中央アジアで家畜として飼育されていたことに始まります。

当時は、羊の毛皮をそのまま敷物や防寒用として使用していましたが、紀元前18~17世紀のバビロン王朝時代から羊毛を衣服として使用しました。その後、ペルシャ、エジプト、さらにローマを径てヨーロッパ全域に広がりました。

現在、世界中で飼育されている羊の数は約11億頭弱、その産毛量 は洗い上げベースで150万トン強と、全世界で生産される総ての繊維の3%を占めています。


哺乳類、偶蹄目、ウシ科に属するこの羊から採取されるウールは、有史以前から今日に至るまで、人類の生活に大きく貢献してきました。この羊の種類は
3,000余種といわれています。

ウールとは一般的にメリノ種の羊の毛のことをいい、オーストラリア、ニュージーランド、フランス・メリノがあり、オーストラリアは生産量の約75%がメリノ種でウール市場の約30%を占めて世界最大の産出国となっており、日本に輸入される羊毛の約80%はメリノ種となっています。

また、毛は羊毛のほかに獣毛があり、羊の毛は「ウール」ですが、他の獣毛(山羊も含んで)は「ヘヤ-」といいます。よく知られている、カシミヤ、モヘヤ、アルパカ、アンゴラなどを高級獣毛と呼び、主として動物の産毛(うぶげ)を使うことで、特有の柔らかく、ぬめりのあるものが出来ます。

ウール及び獣毛の構造

羊毛や獣毛類の毛の表面は鱗(うろこ)のような鱗片で覆われています。テレビのシャンプーのCMに出てくるキューティクルといっているものです。これをスケール又はセレーションと呼び、綿、網、麻などほかの天然繊維にはみられない羊毛の特徴の一つです。

獣毛の表面(スケール)
(写真はウール)
内部構造
断面

このスケールは毛の細いものほど数多く発生しており、その形状も配列も規則正しく、スケールの端は鋭く突出していますが、毛が太く品質の悪いものは必ずしもスケールの発育が完全ではないものもあります。スケールは、羊毛の縮充に大きく関係しています。縮充については後で説明します。

羊毛繊維の吸湿性は、常温の空気中では約16%の水分を吸湿し、飽和状態の湿度下では約30%の水分を吸湿します。したがって、重量で取引をする場合には、水分の含有率が大きく影響します。このため、毛製品は水の含有率を高く保つことが多く、”かび”の発生やほかの損傷を受けやすいので注意が必要です。

強さは、湿潤時には乾燥時よりも弱いが、伸度は、湿潤時の方が伸びやすくなります。良質の羊毛の乾燥時の強さは、同じ太さの鋼線、金線と大体同じくらいあります。

縮充性(しゅくじゅうせい)

羊毛のセーターを洗濯すると縮んでしまうことがありますが、羊毛を重ね合わせて、石けん水と熱と圧力を与えて操んでみると、毛がお互いに絡み合って密着し、硬い塊となります。この性質を縮充性といい、縮充又はフェルトと呼んでいます。この性質は毛独特の性質で、この性質を利用して、フェルト帽子、圧縮フェルト地などが作られています。

縮充(しゅくじゅう)は、毛の独自の特徴であるスケールに関係しています。毛が成長する度に発育しますから、毛根から毛先の方向にスケールができます。つまり、一方の方向には動きやすいけれども逆方向には動きにくい性質があります。(スケールによって引っかかってしまう)

また、毛の太さは皮膚に近い根本が太く、毛先にいくほど細くなっています。このため、上下から圧力がかかると、毛は太い毛根の方向に動きやすくなりますが、毛は内側に絡み付いていきます。これらの作用によって、毛繊維は絡み付き、後戻りできずに縮充が進行していきます。

最近では、毛糸のよさを損なわない程度に、スケールを溶かしたり、スケールと毛の間に樹脂を埋めたりして、縮充をなくした毛糸も出てきています。この処理を防縮加工と呼んでいます。

獣毛の種類(ウール以外)

獣毛名称
動物の名称
産地
繊維の太さ
(mm)
繊維の長さ
(cm)
特  徴




モヘヤ
Mohair
アンゴラゴート
チベットヤギ
トルコ
南アフリカ
アメリカ
0.03~0.05 10~30 ・絹のような光沢
・繊維長が長い
・弾性がある
・耐久性がある
・縮充しない
・白/黄色/銀白
カシミヤ
Cathmere
カシミヤ
やぎ
ヒマラヤ
中国北西
モンゴル
インド北部
0.012~0.02 4~ 9 ・柔らかい
・なめらか
・あたたかい
・繊維が非常に細い
・白/灰色/褐色/淡紫






キャメル
Camel
双こぶ
ラクダ
モンゴル
アフガニスタン
トルキスタン
0.015~0.03 5~7 ・柔らかい
・あたたかい
・なめらか
・暗褐色/赤茶系/灰色



アルパカ
Alpaca
パコ 南米ペルー
ボリビア
チリ
アンデス高地
(4・5000m)
0.03~0.035 10~20 ・光沢がある
・なめらか
・弾力がある
・非常に強い
・褐色/黄/灰色
ビキューナ
Vicuna
ビキューナ 南米ペルー
ボリビア
チリ
アンデス高地
(4・5000m)
0.007~0.018 2~7 ・繊維が細い
・光沢がある
・やわらかい
・縮充性がある
・茶色



ラビット
Rabbit
アンゴララビット フランス
イギリス
ベルギー
その他
0.01~0.03 10~13 ・やわらかい
・光沢がある
・軽い
・毛が抜けやすい
・白/その他

ウール及び獣毛の特性

冬は暖かく、夏は涼しい
繊維自体に空気を含んでいる為、熱伝導率が低い。

吸湿性の良さ
液体の水などは吸収しづらいが、空気中の湿気はよく吸収する。夏などは吸収した水分が蒸発することによる気化熱を奪うためより涼しく感じられる。

染色性が良い
非常に染色性がよく、洗濯堅牢度(色落ち度)が優れている。

燃えにくい
毛の特徴として火に近づけると燃えるが、火から離すと消えてしまう。合成繊維などのように燃え続けることがない。

汚れにくい
水をはじく性質は、水溶性のものをはじくため汚れがつきにくい。また、吸湿性のため静電気なども防げ、それによるほこりの付着も少なくなる。

フェルト状になる
水を含んだウールをもみ合わせると縮んで硬くなりフェルト状になる。

弾性が高く型くずれしにくい
ウールの場合には、約30%程度まで伸びるが、元の状態まで戻る

弾性が高いためしわになりにくい
非常にしわになりにくく、しわになってもすぐに戻る。すばやく戻すには、蒸気を当てるといとも簡単に戻る。。

獣毛の大きな特徴の一つが捲縮(けんしゅく)です。捲縮というのは、毛が根本から先端まで緩やかな波状に屈曲していることをいいます。羊毛は、オルソ・コルテックスとパラ・コルテックスという似た性質を持った物質が1本の獣毛繊維に張り付いた形で構成されています。これをバイラテラル構造といいますが、このために、獣毛繊維は捲縮(けんしゅく)があるのです。

捲縮(けんしゅく)の屈曲の程度も波形が深くて細かなもの、浅く粗いもの、直線状のものがあります。細い毛ほど屈曲の程度が強く、波の数も多い傾向にあります。この屈曲は、糸を紡ぐとき、繊維同士が絡み合うのを助けるもので、波の数が多いものほど品質がよいとされています。また、糸、織物、編物になってからも捲縮の発達しているものは、手触りもよく、保温力もあります。

捲締(けんしゅく)は、蒸して引き伸ばすと一時的には取り除かれますが、時間の経過とともに元に戻ってしまいます。羊毛のズボンのしわや膝の伸びもしばらく吊り下げておけば元に戻るのは、この性質によるものです。

捲縮 (けんしゅく)形状

利用用途

ウール及び獣毛類は、一般衣料品、高級衣料品、意匠性など用途や価格帯によって使い分けられています。

一般的なセーターやスーツ、ストールなどの編物のほか、敷物などの毛織物で使用されております。

婦人用の高級コートなどの高級毛織物、女性用セーター、手袋などに利用されています。

呼び方(番手)

毛番手・毛糸1キログラムで長さが1000メートルあるものを1番手とする。

毛番手は「40/1」などと記載し、1は撚りの本数、40は毛番手となっている。

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製造方法

ウール(羊毛)

1頭の羊には、5000万本もの毛が密生しています。毛の長さは、メリノ種で5.08~10.16cm、雑種で7.62~20.32cm程度のものが一般的です。羊毛の太さは、メリノ種で直径0.018~0.023mm、雑種で0.024~0.042mmくらいです。ただし1頭の羊でも体の場所によって長さや太さが違っています。頭部、腹部、背部、脚部及び咽喉部の毛は短めで、太くて招縮が少なく、あまり良質な羊毛とはいえません。一方、肩の部分や横腹部は比較的細く、良質な毛が収穫できます。

現在、世界中で飼育されている羊は約11万頭。そのなかで、もっともすぐれているのは、オーストラリアを代表するメリノ種の羊です。1頭からは、平均4・55キログラムの羊毛がとれます。細くて、しなやかな弾力性に富む上質のウールです。現在では、全世界の羊毛の45パーセントがこの 「メリノ・ウール」です。羊毛は、メリノ・ウールのほか、クロスプレッド・ウール、カーペット・ウールの3種類に分けられます。

モヘヤ

モヘヤは、羊毛より長く7~20cmの範囲であり、中でも15cmくらいのものが最も多くなっています。太さは直径が0.03~0.05mmくらいです。毛色は純白色ですが、淡黄色又は銀白色を帯びているものもあります。光沢は著しく強く、あたかも絹のような光沢があります。スケールはかすかに認められる程度で、手触りは滑らかで、強度も強く、折り曲げられても反発する力が強くなっています。羊毛独特のクリンプはほとんどなく、紡績が難しく特殊な技術を必要とします。

カシミヤ

カシミヤ山羊の毛には2種類あり、体の表面に生えている毛は、太く硬い毛です。その毛の根本に生えている短い毛が服地などに使われるカシミヤの毛です。毛は極めて細く、直径が約0.012~0.020mm、長さは約38.1~90.0mmであり、とても柔らかく、手触りは滑らかです。

キャメル(らくだ)

毛を取るらくだは、主にここぶらくだの方で、この毛は剛毛と柔毛が混在して生えており、利用される柔毛は、こぶの部分と足の根本の部分に生えています。刈り取った剛毛と柔毛を分離し、柔毛を使用します。柔毛の長さは、50~60mm、太さは直径が約0.015~0.030mm、スケールやクリンプが相当発達していて手触りが極めて柔らかな繊維です。毛の色は、暗褐色で赤味又は灰色味を帯びているものもあります。これらの毛色は、漂白しても脱色できないので、そのままの色を使うか、濃色に染色して使います。

アルパカ

繊維の表面は極めて平滑で、スケールがかすかにみられますが、クリンプはほとんどありません。毛の長さは、10~20cmくらいで、太さは直径が0.01~0.03mmくらい、色は白色のものもありますが、おおむね黒色、灰色又は褐色を帯びていて、中でも褐色のものが高級品としてよく使われています。

ラビット(うさぎ)

うさぎの毛を利用する品種としては、アンゴラうさぎ、家うさぎ、野うさぎに大別できます。この中でアンゴラうさぎの毛は、最も優秀で、1年に1回毛を刈り取るものでは長さは10~15cmに達し、太さは直径が0.01~0.03mmくらい。

うさぎの毛はクリンプがほとんどなく、スケールもほとんどみられません。また、毛の強度も弱いため、うさぎの毛だけでは糸にできません。そこで、細いメリノ種の羊毛を混ぜて糸にしますが、製品になった後でも、毛端が浮き上がって糸の表面に吹き出し、自然に落ちてしまいます。ほかのうさぎの毛は、糸に適さないため使用されていません。

染色に関する事項

羊毛や獣毛類はイオン結合を主とする酸性染料(酸性染法)を用います。強い染色を望む場合は反応染料を用いますが、結合力では優れているものの、色表現の豊富な酸性染料を用いることが結果的に多くなっています。

一般に用いられる染料

  • 酸性
  • バット
  • ミリング
  • クロム
  • 媒染